「カイジ!お前、ケントには相棒つくっといて俺には無しか!?」

地上から遠く空の上。天使センターでタローは叫んでいた。
「人事部長と呼べ。お前に相棒なんてつくったところで、すぐにそりが合わなくてコンビ解消してるだろ?」

眼鏡が素敵な人事部長。カイジはタローを軽くあしらい書類に目を向けた。
「だって、あいつらムカつくんだよ!ちょっと羽が生えたくらいでお高く留まりやがってよ。元人間の癖によ。」

カイジは眉間にしわを寄せつつタローをねめつけた。
「だっても、くそもあるか。確かに、天使になった事で有頂天の奴らも居るがそんな事を言ってられるか!人手不足なんだ。まったく、たまに帰ってきたと思ったらこれだ。
向うで人間と暮らしてるんだって?他のやつと仲良く出来ないからってあんまり人間界に深く関わりすぎるなよ。今は俺が庇ってやってるけど、そのうちやばくなるぞ?」

うるせぇ!とタローは一蹴する。

「皆と巧くやれるなら天使になんかなってねぇよ。」
妙に納得した風にカイジが頷いたのがまた癪に障った。
「じゃあな!」
肩を怒らせて踵を返すタローの背中にカイジはわざとらしく思い出した風を装って言った。
「そぉーだ!そんなに相棒が欲しいならいいやつが居るぞ?」
え?と、タローもわざとらしくきっちりとした回れ右で振り向いた。
「最近入った情報だ。60年前に製作中止で放置された擬人ロボットが居るらしい。
 そいつがほぼ完成してるらしくてな。操作はしたいが今は人手が無い。お前暇なら行ってこいよ。場所教えてやるから。それで、このバッテリーで動いたら好きにしろ。」

言うが早いかタローは天界特製バッテリーと團についての資料を掴み地上へと  言葉どおり  飛び出していた。

              −道をつくり給え―

昏雨山の樹海からは太郎が用意した洋服を着て森をでた。
タクシーを捕まえて駅まで行き、それから新幹線にのった。
「ねぇ。」
やっと席を見つけ落ち着いたところで團は口を開いた。
「うん?」
太郎は棚に鞄を乗せている。團の分の服を入れていた物だ。
「どこに行くの?」
俺ん家。平然と太郎は言った。まあ、存在する以上、居住地は必要か、と團もあまりこだわらずに流した。
それよりも
「僕のバッテリー残量があと少しなんだけど。」
それを聞いた太郎は、おぉ。とわざとらしく手を打ちさっき乗せたばかりの鞄に手を伸ばした。
「これ、カイトから預かってたの忘れてた。ほら。」
と、團に筒状の物を渡した。
水筒くらいのそれは先端にコネクターがあり、それは團のバッテリーのものと同じだ。
「天界特製電池だ。今回特別に作って貰った一点ものだぞ。」
團はその一点ものを眺める。
「これ僕のバッテリーにするには大きいと思う。」
「大丈夫。天界も便利になったから、そいつは伸び縮み自由だぞ。」
團はバッテリーを強く握った。握った所は粘土のように括れた。
「な?ちょっとトイレ行って付け替えて来い。」


トイレから戻ると太郎が駅弁を買って待っていた。
「お帰り。食うだろ?」
確かに食べられる。そもそも團は咀嚼や消化行為の際に起こるアデノシン三リン酸に因って充電をするようになっている。だけどさっきの電池は60年も使われていなかったためすっかり駄目になってしまっていたのだ。
「やっぱりこれもこの充電方法なの?」
駅弁を開けながら太郎に尋ねる。そぼろ丼だった。
「あたりまえだ。お前がそういうふうに出来てるんだから。」
ふぅん。と團はそぼろ丼を口に運んだ。少し味醂がきついあじがする。
「それにしても。あんまり変わらないんだね。町とか。もっと進歩してるのかと思った。」
窓の外を見遣っても、知識として持っていた60年前のものとあまり代わり無い。
「そりゃあ、環境的に現状維持しなきゃまずいところまできてるからな。
変わったといえば、家庭の電力とか車の動力源がソーラーになったりしたぐらいか、でも宇宙のほうじゃもう月でライカ犬を飼い始めたぞ。
あと何百年かしたら地球に見切りをつけるつもりかもな。」
そんなことを話してしばらくすると、太郎が降りる支度を始めた。
「もう、次の駅だからな。
もう五時半か。あいつ帰ってるかな…」
後半部分は独り言らしい。
ちょうど駅弁を片付け終わったところで駅に着いた。ここは結構な都会らしい。それからしばらく電車に揺られてニュータウンのようなところへついた。
「ちょっと歩くぞ。」
5分ほど歩いて平凡な住宅地の平凡な一戸建てに到着した。
表札には、
「宮下?苗字なんてあったの?」
そんなものが天使にあるとは思ってなかった。
「いや、これは俺ん家じゃないからな。居候なんだ。でも苗字はあるぞ。俺のフルネームはとま」
「泊慶太郎っていうの。タローちゃんのフルネーム。」
声のしたほうえ振り返ると高校生くらい髪のとても長い女の子と二、三歳の男の子がいた。
さっきの声は当然彼女の方だ。
「ケイタロウって名前嫌いなんだってタローちゃん。」
と彼女は團に向かって言う。
「恭子、どっか行ってたのか?」
太郎が彼女に話し掛ける。恭子と呼ばれた彼女も普通に答えた。
「ちょっと買い出しにね。」
「…タロー。おかいり!」
男の子が太郎に向かって手を広げる。
「おぉ、洋平ただいま。」
太郎が抱き上げて【高い高い】をした。
「それでタローちゃん。
その子は?」
と恭子が團の方を向いた。
「そいつは現中團っていって…」
太郎が諸々の事情を話し出して洋平を降ろすと、洋平は真っ直ぐに團の方へやってきた。
團は目線を合わすためにしゃがみ込む。自然と見つめ合う形になった。
お互い何をするでもなく睨めっこを続けていた。
すると、
「何やってるんだ?お前達。」
また背後から声が聞こえた。
今度は中学生位の男の子だった。灰色の制服らしきブレザーを着ている。
「あっ、司。お帰り、今ねタローちゃんからこの子の話聞いてたの。」
恭子はしやがんだままの團を示した。
「わかったから、中へ入ったらどうだ。二人とも荷物も持ったままじゃないか。」
太郎は鞄を、恭子は買い物袋を提げていた。
「あっ、お肉買ったんだった!早く冷蔵庫入れなきゃ!」
と恭子が慌ただしく家に入って行き。太郎と司がそれに続いた。
「太郎。あいつは?」
司が團を指した。
「あー、恭子が落ち着いたら一発に説明する。

…團〜、入って来いよ。洋平も。」
團は洋平の手を引いて家に入った。


恭子が買った物を冷蔵庫におさめおわり。
やっと團についての説明会を終えた宮下家のリビングで、今度は團への説明が始まった。
「こいつがこの家の持ち主の宮下司。十五だ。」
司は團と同じ位の背格好だ。多分、今團が着ている服は司の物だろう。
すっきりとして綺麗な顔立ちだけど、なんとなく無気力そうにいらだった顔をしていた。
「んで、こっちは居候の有馬恭子、十九。その息子の洋平。三歳。以上、それからお前には、俺の仕事を手伝ってもらう。」
「あれ手伝うんだ。まど君。」
にこやかな顔で恭子が言った。
「そういえば、今朝カイトが来てたぞ。」
思い出したように司がポケットから一通の手紙を出した。
「お前!早くいえよ!」
「お前今日一日いなかったじゃないか。」
司から引っ手繰るようにして太郎がそれを読むとおもむろに立ち上がった。
「今何時だ?」
「5時43分。」
恭子が答えた。
「あと、一時間もねぇ!・・・團。仕事だ。一緒に来い。」

團は混乱しながらも立ち上がる。
「仕事って!?」
「時間が無い。行く途中で説明する。」
そうして、二人は六時半暗くなり始めた秋の夜へ駆けて行った。

あとがき
やっと2話です。
今回のサブタイトル「道をつくり給え」は
バッハの教会カンタータ第5番「イエスよ、道をつくり給え」
から取りました。
なんとなく天使とか神とか生と死とかミッションチックなのでなにかとそっち系の題名で行きます。
では、読んでいただきありがとう存じます。