しんしんと雪が降る

彼らは

町に降りては草を飾り道をぬらす

嗚呼、またこの季節だ。

僕はもうぼんやりとしか思えない。


〜思い出〜

窓辺に舞い降りた白雪達が小さくなり、溶ける。
彼等にはここは暑すぎて、耐えられない。
あと、もう少しだけ傍に居られたなら・・・。
彼らとも、アイツとも。

        *     *    *
『翔太。雪!つもらないかな?』
綾香はそのファーストフード店特有のガラスの壁から外を指す。
俺はそのときつまらなげにハンバーガーを口に運んでいた。
『積もらないだろ、こんなくらいの量じゃ。』
俺も綾香も中学からずっと同じ塾で、それがきっかけで付き合うことになっていた。
これ以上無いくらい、気があってずっと知り合いだったみたいだと思った。
『つもるよ!だから、一緒に雪遊びしようね。』
楽しそうな彼女の顔、今でもはっきりと覚えている。
        *     *    *
曇り空。
冷たい風の町は日光が薄い、まるで廃虚みたいだと思う。
でもそう思うのは多分俺だけ、道行く人々の足取りは軽く
クリスマスを目前に控え町はいつもに無いくらいの賑わいを見せていた。
賑やかな町とクリスマスのムードが煩わしくて、俺は首をすぼめ足早に歩く。
道行く人の幸せそうな顔が、羨ましくて憎らしかった。

綾香は少し喘息持ちだった事があるらしい。
年齢とともに症状も軽くなり、もうなんとも無いとも言っていた。

昨年少し発作が起こって、入院する事になった。
『たまにあるの、気にしないで。』
彼女は笑った。でもその冬、喘息は肺炎へと発展しそのまま会う事は無くなった。
そしてもう、その笑顔を見ることは出来なくなった。
横たわる綾香の姿を鮮明に覚えている。
泣けなかった、現実じゃないような気がして。
只、否定すれば誰かが『嘘でした』と言ってくれる気がして。
綾香に向かって『嘘だろ?』と呟いた。
そうすればアイツが笑いながら『ばれちゃった?』と言ってくれる気がした。
全て幻想だ。でも、それを現実と思ってる。俺が居る。

        *     *    *
ただ街を歩く。横断歩道の信号待ちでたくさんの人が溜まっている、誰も彼もが幸福そうで、気が滅入った。
その中に一人が目に付いた。
おかっぱを透いたような髪型が風変わりだけど、他の人たちと何も変わらない。
少し幼い顔立ちをしているが、年は15,6くらいだろう。
まじまじと見入ってしまっていると、向こうも俺に気がついた。
変な奴と思われただろうなと、内心で気まずくなって目をそらした。
ふと横を向くとあっちの歩行者用信号が点滅している。もうすぐコチラが青になるだろう。
向かう先も特に無いが、この賑わった大通りには居たくなかったので裏道に入ることにしたのだ。
「泣いてるよ?」
突然自分に向かってきた声に驚いて視線を正面に戻すとさっきの子が自分の正面に来ていた。
俺はギクッとして頬に手をやるがそこに涙は無かった。
「ううん。泣いてるのは彼女。あなたは泣けてないでしょ。」
そいつは空を指して言う。変態か?
「何だよ。お前。」
俺は、警戒気味にそいつに問う。けれども、その問いが答えを得る事は無かった。
「あなたが泣くから、空を雲がさえぎってしまう。曇り空じゃあ、昇っていけない。
でも、そんなことよりもあなたを置いて行ってしまって、悲しませて事に泣いてるんだよ。綾香ちゃんは。」
「なっ・・・。」
話なんて全然わかんなかったけど、こいつは綾香のことを言っている。
それだけは分かった。
「ちょっと来い!」
俺は得体の知れない少女を、少しだけ人通りの少ないところへ連れて行った。
空がよく見えた。

「お前、何者だよ。なんで綾香の事知ってるんだ。
 そんなことよりも、何だよ綾香が泣いてるって。」
少女の表情は、少し憂いを含んでいて・・・。何となく、曇り空のような感じがした。
「あなたの悲しみが空を曇らせてるの。だから、綾香ちゃんのココロは空に止めつけられて昇っていけない。あなたが閉じ込めてるの。」
「訳わかんねぇよ!」
俺が?綾香の魂をとめつけてるって?何だよそれ!訳わかんねぇよ!
俺が悪いってのかよ、なんで、そんなこと責められなきゃなんねぇんだ。
「人のココロは
カラダを失うととても軽くなって空に上がっていくの。でも、死を認めてくれないと、空には上がっていけないよ。綾香ちゃんは死んだの。」
死んだの。今までに、何度かそんなことを言われた気がする。
その度に同じように返してきた。
「分かってるよ、そんな事。葬式にだって行ったんだ。」
分かってる。・・・のか?
「じゃあ、何で認めないの?何が怖いの?」
こいつは、心を抉ってくる。
「怖くないって言うのかよ。もう、会えないんだぞ?」


「それで、もう無かったことになるの?」
スッ、
っと彼女のほうを伝う涙が目に焼きついた。
「過ごした日々が、全て無かったことになるの?」
そう聞かれても、俺は答えることが出来なかった。
肯定も、否定も、俺の中にはあったから。
その俺を見て彼女は笑った。
「違うよ。
 思い出はずっと、残るんだ。時を経ても、
 ココロの奥の大切な宝箱に色あせないようにずっと、ずっと、残ってるよ。」
俺はその言葉に安心した。
だけど、同時にそれを認めてしまうと綾香の事を忘れていってしまうような気がした。
「そんな、保障どこにあるんだよ。」
彼女は笑顔を崩さない。雪がふわりと空を舞い始めた。
「雪だって、そうだよ。すぐに溶けちゃう。でもね、私を忘れないでって、道をぬらしすの。眠った草にも、元気出してって水を与える。次の年にまた雪が降れば、去年の雪の事だって忘れちゃうかもしれないでも、覚えている人はずっと覚えているんだよ。思い出だって、その人を大切にしていた人はずっと思えてるよ。だから、安心して。」
安心して泣いて良いよ。そう言って貰いたかったのかも知れない、
俺の目からは、とめどなく涙が流れていく。

「ほら雲が切れた。」
彼女の指すほうの空を見れば、雲の切れ間から一筋光がのぞいていた。

    もう大丈夫だね。

最後に嬉しそうな声が聞こえた。

彼女が居た所を見ても、もう何も無い。
あの子は、俺に気づかせてくれた。
顔を見れなかったけど、とても嬉しそうだった。
たぶん笑っているだろう、あの子も綾香も。


純白の中の奇跡と
淡雪の中の永遠の思い出。




〜あとがき〜
もうグダグダですね。
雪の関係性いつの間にか薄くなってるし・・・・。
まぁ、そこらへんはまだ修行中の身ですので、ご愛嬌と言った所で(逃)